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仙台地方裁判所 昭和30年(行)10号 判決

原告 坂寛子 外一一名

被告 仙台市長

主文

被告が、昭和二九年一一月一三日付で、仙台市東二番丁二一番宅地にある京恒一郎の借地に対する換地予定地として、従前の同市東三番丁一八七番地の一部第三ブロツク第二一号の一部(約三〇坪)を指定した処分はこれを取り消す。

原告重信の訴を却下する。

訴訟費用のうち原告重信と被告との間に生じた部分は、逸見惣作、森静の負担とし、その余の部分は被告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文第一項と同趣旨及び「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、

「仙台市東二番丁二一番宅地五〇七坪四合七勺、二二番宅地一九八坪六合三勺、同番の一宅地一九二坪二合七勺、同番の二堀敷九坪八合五勺は、もと訴外坂しま、坂英毅、原告たまき、慥爾、猶興の共有であつたところ、英毅の持分は、昭和二〇年七月二〇日、同人の死亡による家督相続によつて原告信興に移転(同二八年六月一九日にその旨登記)し、しまの持分は、同二〇年一〇月二八日、同人の死亡による遺産相続によつて原告ら一二名に移転(同二八年六月一九日にその旨登記)したので、右土地はそれぞれ原告ら一二名の共有となつたが、そのうち二一番宅地については、同二八年六月一九日、二一番の一ないし五に分筆登記され、同年三月一三日にされた原告ら間の共有物の分割を原因とし、同年七月二〇日、同番の一は原告信興、寛子、正毅、貞子の共有、同番の二は原告たまきの所有、同番の三は原告猶興の所有、同番の四は原告ゆう、ジユウ、む津子、重綱、重信の共有、同番の五は原告慥爾、猶興の共有として、それぞれ登記された。

右二一番、二二番、同番の一、二の各土地は、仙台市の特別都市計画法に基く都市計画の施行区域に編入されており、その換地予定地として、昭和二八年一月七日従前の同市東三番丁一八七番及び同市清水小路三七番の三の一部第三ブロツク第二一号(約二四〇坪)並びに同市東二番丁二一番、二二番及び同番の一、二の一部第四ブロツク第四三号(約四二一坪)が被告によつて共有者に指定、その旨関係人に通知されたが、さらに被告は、同二二年九月二六日付特別都市計画法施行令第四五条による訴外京恒一郎の権利(同訴外人が坂英毅所有前記二一番宅地のうち二〇坪を昭和二〇年九月から期間を定めないで賃料月金六十円と定めて借り受けている借地権)申告に基き、同二九年一一月一三日右京の借地権の目的たる同市東二番丁二一番宅地の一部(約二〇坪)の換地予定地として従前の同市東三番丁一八七番の一部第三ブロツク第二一号の一部(約三〇坪)を右京に指定し、即日関係人にその旨通知(以下「本件指定処分」という)した。

しかしながら、訴外京は右二一番の宅地について前掲賃借権はもちろん、その他これを使用収益し得るなんらの権限をも有していない(右申告は既に昭和二〇年七月二〇日に死亡している英毅の署名捺印を冒用してされている)。よつて、被告の本件指定処分は違法であるからその取消を求めるため本訴に及ぶ。」と陳述し、

被告の主張に対し「訴外坂キンが被告主張の日時にその主張するとおり、右二一番宅地の一部約二〇坪を京に賃貸し、京が権利申告をするにあたつても、亡夫坂英毅名義で承諾を与えたことは認めるが、キンが右宅地の管理人として賃貸の権限を有していたとの点は否認する。さらに、右賃貸はキンの子供原告信興(当時未成年)を除けば、そのほかの共有者(当時、右宅地は訴外しま、原告信興、たまき、慥爾、猶興の共有――登記簿上は訴外しま、英毅、原告たまき、慥爾、猶興の共有)の承諾を得ていないし、右権利申告も原告信興、寛子、正毅、貞子(当時いずれも未成年)の母キンより坂英毅名義で同意を得たのみで、そのほかの共有者(当時右宅地は原告ら一二名の共有――登記簿上は訴外しま、原告信興、たまき、慥爾、猶興の共有)の同意は得ていない。従つて京の右賃借権は、右宅地を使用収益し得る正当の権限といえないし、右権利申告も違法といわなければならない。このような無権利者の違法の権利申告に基いてされた本件指定処分は違法である。」と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の請求原因事実中、本件二一番、二二番、同番の一、二の各土地が仙台市の特別都市計画法に基く都市計画の施行区域に編入され、昭和二八年一月七日原告主張のとおり右各土地の換地予定地指定の通知がされ、さらに被告が原告らの主張どおり京の権利申告に基き、同二九年一一月一三日、その借地の換地予定地指定の通知をしたことは認めるが、その余の事実はすべて知らない。

京は昭和二〇年七月一〇日の戦災後間もない頃、右二一番宅地の管理人として賃貸の権限を有していた訴外キンから、その一部約二〇坪を賃借したもので、右権利申告をするにあたつても、同訴外人より坂英毅名義で同意を得ているから、右権利申告従つてこれに基く本件指定処分は適法である。

かりに、キンに管理権がないとしても、京の提出した権利申告書(甲第三号証)がある以上、被告としてはその記載の真偽を審査する権能を有しないし、その審査をするいとまもないから、その記載を信ずるほかないのであつて、右申告書の記載に基いてされた本件指定処分は適法である。」と述べた。

(立証省略)

理由

原告らの本訴請求が、昭和三〇年五月一三日に当裁判所へ提起されたことは、訴状に押捺されてある当裁判所の受付印によつて明らかであるところ、原告猶興本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、原告重信は同二八年一〇月三日既に死亡していることが認められるから、右請求のうち、原告重信の請求は不適法として却下を免れない。

そこで次に、ほかの原告らの請求について判断することとする。

成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、第五号証の一ないし五によれば、本件二一番、二二番、同番の一、二の各土地はもと訴外しま、英毅、原告たまき、慥爾、猶興の共有であつたところ、英毅の持分は昭和二〇年七月二〇日、同人の死亡による家督相続によつて原告信興に移転(同二八年六月一九日にその旨登記)し、しまの持分は、同二〇年一〇月二八日同人の死亡による遺産相続によつて原告ら一二名に移転(同二八年六月一九日にその旨登記)したので、右各土地は、それぞれ原告ら一二名の共有となつたことが認められ、右各土地が仙台市の特別都市計画法に基く都市計画の施行区域に編入され、同二八年一月七日原告ら主張のとおり、右各土地の換地予定地指定の通知がされたことは当事者間に争いなく、その後、同二八年六月一九日右二一番宅地が二一番の一ないし五に分筆登記され、同年三月一三日にされた原告ら間の共有物分割を原因として同番の一は原告信興、寛子、正毅、貞子の共有、同番の二は原告たまきの所有、同番の三は原告猶興の所有、同番の四は原告ゆう、ジユウ、む津子、重綱、重信の共有、同番の五は原告慥爾、猶興の共有として、同年七月二〇日にそれぞれ登記されたことは前示甲第二号証の二、第五号証の一ないし五及び原告たまき本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第四号証の一ないし六によつて認め得るところであるが、さらに被告が原告らの主張どおり、京の同二二年九月二六日付権利申告に基き、同二九年一一月一三日右借地の換地予定地指定の通知をしたことは当事者間に争いないところである。

よつて、右借地の換地予定地指定処分が違法であるかどうかについて判断を進める。

訴外キンが昭和二〇年七月一〇日の戦災後間もない頃、前記二一番宅地の一部約二〇坪を京に賃貸したことは当事者間に争いなく、当時右宅地が訴外しま、原告信興、たまき、慥爾、猶興の共有(登記簿上は訴外しま、英毅、原告たまき、慥爾、猶興の共有)であつたことは前判示のとおりである。そこで、京の右賃借権が右宅地を使用収益し得る正当の権限といえるか否かについて考えると、被告はキンが右宅地の管理人として賃貸の権限を有していたと主張し、証人京の証言及び原告寛子、正毅、貞子の法定代理人キン尋問の結果の中には、それぞれ右主張に添う供述があるけれど、右各供述は原告たまき、猶興の各本人尋問の結果に照して信用できず、却つて右各本人尋問の結果によれば、右宅地は共有者の一人である訴外しまが管理していたものであるところ、同人が老衰の兆をみせはじめたので、原告猶興が同人をひきとり昭和二〇年三、四月頃から管理するようになつたが、その後同二五年一一月頃からは原告たまきが管理人の地位をひきついで現在にいたつているのであつて、キンが管理人として賃貸の権限を有したことはなかつたことが認められ、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はないから、右主張は採用の限りでなく、京の右賃借権をもつて右宅地を使用収益し得る正当の権限とはいえないというべきである。たゞ、原告信興が当時未成年であり、キンがその母であることは原告らの自認するところであるから、キンは原告信興の法定代理人として右宅地を賃貸したのではないかが問題となるけれど、共有地の賃貸は共有者全員の同意を要するところ、右賃貸に際し、原告信興を除くそのほかの共有者が承諾を与えていないことは右各本人尋問の結果によつて明らかであるからこの問題は右判示を左右するものではない。なお京がその後昭和二二年九月二六日権利申告をするにあたつて、キンより坂英毅名義で同意を得たことは両当事者の争わないところであるが、キンが管理人でなく、賃貸の権限をも有しないこと、右認定のとおりであり、また前判示の如く当時二一番宅地が原告ら一二名の共有(登記簿上は訴外しま、原告信興、たまき、慥爾、猶興の共有)であつたところ、キンが当時いずれも未成年者であつた原告信興、寛子、正毅、貞子の母であることは原告らの自認するところであるが、そのほかの共有者が右権利申告に同意を与えていないことは原告たまき、猶興の各本人尋問の結果によつて認められるところであるから、キンの右同意があつたからとて、京の賃借権が右宅地を使用収益し得る正当の権限になる訳はない。そしてほかに京が右宅地を使用収益し得る権限について、なんらの立証もされていない。

してみれば、京は右宅地について、特別都市計画法第一三条第二項にいわゆる「関係者」ではないといわなければならないから、このような無権利者である京の権利申告、従つてこれに基く本件指定処分は違法というべきである。

被告は、キンに管理人として賃貸の権限がなくても、右指定処分は要するに京の提出した権利申告書の記載を信じてされたものであるから適法であると主張するが、右は法律的に理由のない主張であつて、顧慮するに値しない。

従つて、右指定処分は取り消されるべきであるが、その取消を求める原告ら(原告重信を除く)の本訴請求はいずれも保存行為と見得るので、共有者全員をもつてすることを要しないから、これを正当として認容し、訴訟費用について、本件記録中には昭和三〇年五月一三日(前に認定した本訴提起の日と同じ)付、原告重信の弁護士逸見惣作、森静に対する訴訟委任状が存するが、原告重信が同二八年一〇月三日既に死亡していたことは前に認定したとおりであるから、右委任状は誰かが何かの間違で作成したものというほかはなく、従つて右逸見、森は原告重信の訴訟代理人ではあり得ないから、民事訴訟法第九九条、第九八条第二項に従い原告重信、被告間に生じた訴訟費用は右逸見、森の負担とし、そのほかの訴訟費用は同法第八九条を適用して被告の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 中川毅 金子仙太郎 佐藤邦夫)

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